平成14(2002)年9月26日放送(TBS「筑紫哲也NEWS23」より)
巨龍解剖〜南京編〜
筑紫哲也(司会者) | えー、日中友好、国交回復30周年に、ちなんだシリーズ「巨龍解剖」2回目の今夜は、南京編です。 日中の友好に、常に影を投げかけて来たのが、「不幸な歴史」、「過去をめぐる歴史認識」の問題です。 日本はかつて、日本軍は中国で何をしたのか、そして中国では、今その事が、どういう形で伝えられているのか。 侵略の象徴の場と言える南京で、次を担う若い世代に聞きました・・・。 |
女性音声ナレーション | 1937年、日本軍が当時の中国・・・国民政府の首都・南京に侵攻した際、民間人を含む中国人を大量虐殺したとされる・・・いわゆる南京事件。 現地の記念館には、今もその生々しい傷跡が残っています。 そして、あれから65年後の今・・・。 |
南京路上にて、大学生A | 日本のこと大好きです。アニメとか・・・。 |
南京路上にて、大学生B | 日本は、過去の歴史を後世に伝える義務があります、歴史を隠してはいけない。 |
南京路上にて、20代男性 | いつまでも、過去にとらわれるべきでは無い。 |
"南京事件"被害者、夏淑琴さん | ここが、私の家です。 確かに、ここに住んでいました。 |
女性音声ナレーション | 彼女は"南京事件"当時8歳、9人の家族のうち7人を、日本軍に殺されたと証言を続けます。 当時の自宅は、今は廃墟でした。 |
"南京事件"被害者、夏淑琴さん | 家族は、日本軍国主義者に殺されたのです。 昔の事を思い出すと、今でも辛いんです。 |
女性音声ナレーション | 30万人。 中国側が主張する南京事件の犠牲者数です。 大虐殺記念館では、日本の鬼が、中国人民を虐殺したと、これでもかと言わんばかりの展示が並んでいます。 かつて、日本人は中国で何をしたのか、戦争の記憶が薄れつつある中、中国では次の世代に、何がどの様に伝えられているのでしょうか。 |
"南京大虐殺記念館"朱成山館長 | 開館当初は、中国の若者に対する歴史教育の場でしたが、現在では、より国際的な歴史教育の場となっています。 |
女性音声ナレーション | 侵略の事実は事実とした上で、展示資料の信憑性や展示の仕方に、今後再検討が必要だという指摘は、日中双方から後をたちません。 実際、南京という日本軍による侵略の象徴的な場で暮らす若者は、どう考えているのでしょうか。 集まってくれたのは、(南京外国語学校生徒)日本語課の学生です。 |
外国語学校、男子生徒A | 日本という国は、あまり良い印象は無い。 |
外国語学校、女子生徒A | 実は、元々日本語は全然勉強したく無かった。 |
外国語学校、男子生徒B | 日本語を勉強しているのは、英語、フランス語より日本語の方が簡単かと思って。 |
外国語学校、女子生徒B | 私は、別に深く考えずに、日本語課に入りました。 |
女性音声ナレーション | 彼らのほとんどが、いわゆるエリート・コース・・・。 医者や弁護士の卵です。 そんな学生達の、対日感情のホンネとは・・・。 |
外国語学校、女子生徒C | 日本の勉強してから、もう4年ですから・・・。 沢山の日本人と交流しました。 勉強する前は、本当に良いイメージを持っていませんでしたが、今はもう変わりました。 |
外国語学校、男子生徒C | 僕は、南京の一員として、なぜ日本人は、こんなに多くの人を殺したのか?と思っています。 でも、日本語を勉強してから、考え方がちょっと変わりました。 日本人も、色んな良いところもあると思っています。 |
外国語学校、男子生徒D | 日本人と話す時には、あまりこういう問題を話して無いか、話して無かったから・・・。 今、戦争なんか余り興味は無い・・・。 |
外国語学校、女子生徒D | 日本の友達とは、余り歴史とか言わないで、ただ今、現代の文化とか、自分の興味などについてだけ話します。 |
女性音声ナレーション | 余り深く考えずに、日本語課に進んだという彼女に話を聞くと、現在、自宅で日本人留学生を受け入れているという事です。 彼女自身、先月まで日本で、半年間ホームステイしていました。 自宅を訪ねました。 両親は共働きで兄弟はいません。 南京市内の、ごく普通のアパートだそうです。 |
外国語学校生徒3年生、江さん | 普通は、たぶん3時間くらい自習します。 うちの(外国語学校)は、普通の学校より早くて、朝7時45分に授業が始まります。 やっぱり、自分はテレビとかで見て、本とか、新聞とかを読んで、特に南京大虐殺の事実を良く知ってから、日本に対するイメージ、余り良くなかった。 |
女性音声ナレーション | 一方、日本人の彼女は、あえて南京だからこそ、留学を決意したそうです。 |
日本人、女子生徒、留学生 | 中国と日本は、すごい深い関わりがあるのに、私達、日本の学生というのは、余り中国に関して知っている事が、多くないって言うのは・・・、南京大虐殺の事にしても、数が違ったりとか・・・どれが正しいのかっていう、その正しい事実を知りたいのに、知れないみたいな・・・。 |
外国語学校生徒3年生、江さん | 多分、このままずっと中国国内にいたら、多分、やっぱり、(対日)イメージは今ほど良くない。 |
女性音声ナレーション | 南京市内の、別の高校を訪ねました。 この日、9月18日は、日中15年戦争の発端となった・・・いわゆる"抗日記念日"です。 |
"南京事件"被害者、李秀英さん | 私は、日本兵に体中を何度も刺されたのですよ―――。 |
筑紫哲也(司会者) | やっぱり、日本人・・・日本兵というのは大変、憎いと今でも思いませんか。 |
"南京事件"被害者、李秀英さん | 最初は、日本人が憎くてしょうが無かったが、日本人と接してからは、良い人たちだと―、同じ人間ですから。 |
女性音声ナレーション | 南京事件当時、18歳だったという彼女は、フィルムに撮影されており、残された文書記録と共に、証言も一致しているという被害者です。 |
南京第9中学校、高校1年、男子生徒A(注1) | 日本人は友好的な人々だが、一部は歴史の事実を否定している。 日本の軍国主義復活が恐ろしい。 |
南京第9中学校、高校1年、女子生徒A | 日本人が南京で犯した罪は絶対に忘れない。 南京市民として、ここで大量虐殺があったなんて・・・。 |
質問 | 日本に行った事は? |
南京第9中学校生徒 | ・・・ありません。(全員、来日経験無し) |
女性音声ナレーション | "南京事件"を巡っては、日中両国を中心とした、これまでの研究成果で、被害者数は、数万から十数万という数字が有力です・・・。 一方、中国の記念館では ―――。 |
朱成山、南京大虐殺記念館館長 | 被害者の数は、南京大虐殺の本質的問題ではありません。 例え、3万、3千、3百人を殺しても、虐殺は虐殺です。 |
女性音声ナレーション | 日本に留学経験のある(中国人)弁護士は、こんな考えを持っています。 |
日本で中国人戦後補償裁判に関わった劉恵明弁護士 | 今の日本はね。 まぁ、どこかの国を侵略に行って、日本人はね、拳銃を持って行ってね、どこかの国に、又、悪い事をやる事はね、やはり考えにくいです。 もし、日本政府が"過去の歴史"、特に"侵略の歴史"をちゃんと精算したら、普通の国家になってもいいですよ。 例えば、軍隊を持っても良いと思います。 |
女性音声ナレーション | 南京には現在、修学旅行で、毎年日本から多くの学生が訪れています。 |
日本に留学経験のある東南大、女性日本語講師 | 中国の学生達は、とっても勉強熱心なんですよね。 ただ・・・世界に関しては、どのくらい理解出来ているのか、中国(国内)で日本をどこまで見えるのか、それは問題です。 中国の若い人達は、これからは、もう少し自分の目で(日本を)見て欲しいと思います。 日本の若い人達は、正直申し上げますと、余り中国の昔の事に関しては、興味が無い様に私は感じています。 中国では"共に勝てる"という言葉を使うんですね。 お互いに、これからの新しい世紀に向かって、世界の中で勝てる様に協力し合うべき・・・だという風に思います。 |
南京市民、20代女性 | 過去の事は、分かりません―――。 戦争と言っても、昔の事ですから。 |
南京市民、20代男性 | 戦争なんて経験無いし学校でも、それほど教えませんから・・・"過去の侵略"と言ってもメディアで知るだけです―――。 |
筑紫哲也(司会者) | まぁ、過去に起きた事って(南京事件を)キチンと認めるって事が大前提だけど・・・。 もう1つ大事なのは、その後どういう努力を・・・何をやったかという事の方が、現在についてより、良いと思うんです。 中国、南京の人に限らず、中国の人に会って、日本へ来たり、日本と、日本人と知り合った事で、今までの日本人のイメージが、相当変わったって人が、非常に多いですよね。 だから、つまり、お互いに、お互いを知り合うというのが、どのくらい大事なのか、あらゆる、こう・・・チャンネルを通して、色んな運動をするって事・・・。 |
草野満代(キャスター) | (日本人に)会えば良い人なんだけど・・・だけど、やっぱり、その都合の悪い事とか、面倒臭い事に目を向けない限り、ずーっと、こう、ずーっと(南京事件が)ある訳ですよね。 ずーっと、わだかまりとして・・・。 |
佐古忠彦(キャスター) | 1つだけ、こう、もっと、ハッキリして言える事ははね、結局アジアの中で、いまだに日本と言うモノに対して、どうしても、こう・・・根底からの不信感って言うかね・・・じゃあ、これは、なぜそうなんだろうかと・・・もうちょっと、やっぱり考えなきゃいけないんだろうな、と思いますよね。 |
筑紫哲也(司会者) | そうなんですよね・・・。 うわべに、こう色んな事を、済んでいる様に見えても、底は残っている・・・。 それは、やっぱり、そこを(戦後補償を)どうするか・・・という事が、やっぱりしなきゃダメですね。 はい。 |
草野満代(キャスター) | さて、このシリーズ"巨龍解剖"、明日もつづきが・・・明日はですね、"日中若者現代事情"をお送りします・・・。 |
注(1)・・・ 普通学校は、日本の中・高6年間に当たる。
TBS「筑紫哲也のNEWS23」
平成14年9月26日放送、放映時間13分5秒
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