おわりに

 以上、昭和天皇が御指摘になられた諸問題は、いずれも大問題であり、日本は世界の強国の一員になったとたんに厳しい国際環境に直面したことが理解できる。
 果たしてこの困難な国際情勢に対処すべき日本における国内情勢はどのようなものであったのか、これを指摘されているのが御見解の後半部分である。
 そこに語られているのは、当時の政党が腐敗堕落して国民の信頼を得られず、軍部の若手が危機意識を持って行動した事実である。
 当時の日本は、2大政党時代であり、政友会と民政会の両党が政権を担当していた。
 しかしながらこの両党は政権を獲得するに当たって、相手党のスキャンダルを暴くという方法を使うことが多く、ために新聞には政党スキャンダルが頻繁に登場することとなった。
 当時の国民は、政党のだらしなさを子供に至るまで知っていたという。
 困難な世界情勢を憂い、祖国の前途を気遣う人々は腐敗した政党政治の危機的対応能力を見限り、清新・強力な政治を求めた。
 こうした国民の声に答えようとしたのが軍部のいわゆる革新将校たちであった。
 昭和天皇が彼らの気持ち、行動が祖国への前途への憂いにあったことを御指摘になられているのはこうした理由からである。


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